潤滑油の種類とマシニングセンタにおけるグリース潤滑の課題 | マシニングセンタ大解剖
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潤滑油の種類とマシニングセンタにおけるグリース潤滑の課題
公開:2024.10.30 更新:2024.10.30潤滑油は機械部品の摩擦を減少させ、寿命を延ばす役割を果たします。日本精工は新製品「ロバストライド」を開発し、グリス寿命を60%、許容回転数を20%向上させ、メンテナンス頻度を減少させることで作業効率を改善しました。
目次
潤滑油とは?切削油や作動油との違い
潤滑油は、機械部品が滑らかに動くために使われ、摩擦を減少させ、部品の寿命を延ばす役割があります。切削油や作動油とは異なり、潤滑油は主に摩擦を抑える目的で使用されます。作動油は油圧システムに特化し、切削油は金属加工時の抵抗を軽減します。
◇潤滑油とは
潤滑油とは、機械部品やパーツが滑らかに動作するために使用される油のことです。工業分野では、潤滑油の他に作動油や切削油も広く使われていますが、潤滑油は最も一般的で身近な存在です。潤滑油は、金属同士の摩擦を減少させ、熱の発生を抑えることで、部品の摩耗を防ぎ、寿命を延ばす役割を果たします。
実生活でも、手をこすり合わせると熱が生じますが、石鹸を使うことで滑らかに動くのと同じ原理です。また、潤滑油は金属以外にも、樹脂やゴム製品にも使用され、製品の保護や異音の防止に寄与しています。さらに、潤滑油は冷却や密閉の目的でも利用され、その用途は非常に多岐にわたります。
このように、潤滑油は機械の効率的な動作を支え、製品の寿命を延ばすために不可欠な役割を担っています。これから潤滑油を使用する予定の方は、その重要性と用途を理解し、適切に使い分けることが大切です。
◇切削油や作動油との違い
潤滑油、作動油、切削油は、それぞれ異なる役割を持つ油の種類です。潤滑油は、二つの物体がこすれ合う部分に使用され、摩擦を最小限に抑え、長時間の稼働や部品の寿命を延ばすことを目的としています。そのため、潤滑油は高粘度で、油膜をしっかり保持することが求められます。
一方、作動油は油圧システムで用いられる油で、油圧伝達に特化した性質を持ちます。作動油は潤滑だけでなく、防錆や冷却の役割も果たし、金属面同士の摩擦を抑える必要がありますが、適切な粘度が求められます。また、火災のリスクがある場合は、難燃性の作動油が選ばれることもあります。
切削油は金属加工で使用され、熱を逃がし、切削時の抵抗を軽減する役割を担います。これにより、刃物の寿命が延び、効率的な加工が可能になります。切削油も潤滑、冷却、防錆の機能を持ちますが、より特化した用途に応じた油です。
潤滑油の仕組みとグリース潤滑の課題
潤滑油はマシニングセンタで重要な役割を果たし、自動供給されます。残量確認が必要で、減少するとトラブルが発生します。潤滑油は動粘度に基づき分類され、主な潤滑方式にはグリース、オイルエア、ジェットがあります。グリース潤滑は環境負荷が小さいが、高速運転時の温度上昇や寿命の課題があります。
◇潤滑油の仕組み
潤滑油はマシニングセンタにおいて、ボールねじや各部の摺動面に自動で供給される重要な役割を果たします。電源を入れると、潤滑油タンクから必要な箇所に適量が供給されるため、潤滑油の残量を常に確認することが求められます。残量が減ると焼き付きなどのトラブルが発生し、アラームが点灯することで一時的に機械が使用できなくなることもあります。特に、休日や夜間の自動運転を行う際には、潤滑油の確認が不可欠です。
潤滑油は主に動粘度によって分類され、ISO規格に基づいてVG(Viscosity Grade)で表記されます。動粘度は流体の動きにくさを示し、数値が小さいほどサラサラで、大きいほどドロドロになります。温度によって変化するため、40℃での値が重要です。
潤滑油はマシニングセンタをスムーズに動かすためのコストの一部であり、大量購入を希望することもありますが、開封後の長期保管は性能劣化を招きます。そのため、18L缶などの一定量を定期的に購入することが推奨されます。潤滑油の補充時には、切りくずやゴミがタンクに入らないよう注意が必要です。
◇潤滑油の主な種類
マシニングセンタの主軸は、適切な回転数と剛性を保つためにさまざまな潤滑方式を採用しています。主な潤滑方式には「グリース潤滑」、「オイルエア潤滑」、「ジェット潤滑」があります。
グリース潤滑は、軸受内に適量のグリースを封入する方式で、メンテナンスが容易です。この方式は低速から高速まで、低温度上昇で使用できるため、特に低速回転の機械に適しています。
オイルエア潤滑は、潤滑油を混入したエアーを軸受に吐出します。この方式は主軸の高速化・高精度化に伴い広く採用されており、潤滑油による冷却効果はないものの、エアーによる冷却が可能です。また、油の消費量が少なく、切削油の侵入を防ぐことが特徴です。
ジェット潤滑は、冷却潤滑油を温度制御し、高速で軸受に噴射します。この方式は冷却効果が高く、主軸をより高速で回転させることができます。主にジェットエンジンやガスタービンの主軸受けに使用されています。
◇グリース潤滑の課題
グリース潤滑は、オイルエア潤滑に比べて環境負荷が小さいため、持続可能な選択肢として評価されています。しかし、高速化や潤滑剤の寿命、クーラントの浸入に関しては課題が残ります。
主軸を高速回転で使用すると、軸受の温度が上昇し、グリースの寿命が短くなります。このため、主軸の高速化とグリースの長寿命化を両立させることが重要な課題です。技術革新によって、より高温に耐えるグリースの開発が期待されます。
クーラントの浸入を防ぐための一つの手段として、エアバージ量を増やす方法がありますが、これはエア量削減という開発目標に矛盾します。このため、エア量の削減とクーラントのシール性能を維持する方法を見つけることが課題となります。
軸受のパイオニア日本精工株式会社
日本精工株式会社は1916年に国内初の軸受を開発し、以降100年以上産業の発展に貢献しています。海外にも展開し、技術革新を続けています。2022年には「NSK Feed Drive Adjuster」を発表し、工作機械の精度向上を図っています。
◇国産軸受のパイオニア
日本精工株式会社は、軸受(ベアリング)の国産パイオニアとして、1916年に日本で初めて軸受の開発・製造に成功しました。軸受は「産業のコメ」とも称され、機械や設備の信頼性や効率を向上させる重要な部品です。以来、同社は革新的な技術と製品を提供し続け、100年以上にわたり産業の発展と環境保全に貢献してきました。
1960年代初頭から海外に進出し、現在では30カ国以上に拠点を設けています。同社は「MOTION & CONTROL™」を通じて、円滑で安全な社会に貢献する企業理念を掲げており、2016年には創立100周年を迎え、「NSKビジョン2026」を策定しました。このビジョンは、安全で快適な社会の実現に向けて「新しい動きをつくる」ことを目指しています。
2022年度から始まった新中期経営計画では、「持続的成長を可能にする企業基盤の再構築」を重視し、「変わる 超える」の挑戦を進めています。NSKは、安全・品質・環境・コンプライアンスをコアバリューに掲げ、新たな価値を創出し、社会の持続可能な発展に貢献するリーディングカンパニーです。
◇工作機器の精度向上に貢献
日本精工は、2022年11月2日に新たな技術「NSK Feed Drive Adjuster(NSKフィードドライブアジャスター)」を発表しました。この技術は、ボールねじを使用した工作機械の送り系の状態を安定化させ、加工の精度向上に寄与します。
工作機械が稼働中、ボールねじの温度が上昇すると、ねじ軸がわずかに伸び、異常や故障を引き起こすことがあります。従来の方法では、ねじ軸を支持する機構の片側で軸方向の変位を逃すことで対応していましたが、これでは支持剛性が低下し、加工精度や品質に悪影響を及ぼすことが課題でした。
同社は、片側のサポート軸受部の適度な剛性と動特性を維持しつつ、軸方向の変位に追従する独自技術を開発しました。これにより、送り系の温度が過剰に上昇しても剛性の変化を最小限に抑え、軸方向の荷重を支え続けることが可能になります。この技同社導入すれば、加工精度や品質、生産性が向上するだけでなく、暖機運転や冷却によるロスタイムや環境負荷の軽減も期待できます。また、電力供給が不要で、後付けが容易である点も魅力です。
グリース潤滑の高速化と長寿化に成功した事例
日本精工の新製品「ロバストライド」は、主軸用精密単列円筒ころ軸受で、グリス寿命や許容回転数を向上させた環境貢献型の製品です。従来の課題であったグリスの劣化を改善し、保持器の設計を最適化することで強度を80%向上させ、グリス寿命を60%、回転数を20%延長しました。
◇開発前の課題
日本精工が開発したマシニングセンタの主軸用精密単列円筒ころ軸受「ロバストライド」は、グリス寿命、許容回転数、グリス慣らし性の向上を実現し、環境貢献型の新製品として注目されています。
主軸の軸受には、潤滑方式としてオイルエア潤滑とグリス潤滑があり、近年では付帯設備が不要で電力消費も少ないグリス潤滑が注目されています。しかし、グリス潤滑ではグリスの劣化が問題で、特にグリス寿命が軸受の損傷につながることが課題とされていました。これにより、軸受の交換頻度が高く、メンテナンスサイクルが短くなり、高速回転時の使用領域にも制限がかかる状況が続いていました。
NSKは、グリス寿命を向上させるために保持器の案内方式に注目しました。保持器は転動体の間隔を保つ役割を果たしますが、外輪案内保持器は耐久性が高い反面、グリス封入量が少なく、許容回転数が制限されるという課題がありました。一方で、グリス封入量が多いころ案内保持器は耐久性に欠け、高速回転時に性能が低下する問題を抱えていました。
◇保持器の案内方式の改善
同社は、軸受内部の設計と保持器の形状、材料を最適化し、従来のころ案内保持器に比べて最大80%の強度向上を実現した新しいころ案内保持器を開発しました。この改善は、保持器の柱と呼ばれる部位の強度を高めることで達成されました。
この新しい保持器を搭載したマシニングセンタ用の主軸用精密単列円筒ころ軸受「ロバストライド」は、現行品と比較して、グリス寿命を最大60%延長し、許容回転数を最大20%向上させることができました。これにより、メンテナンスの頻度が減り、より効率的に稼働することが可能になります。また、グリス慣らし運転にかかる時間も約3分の1に短縮され、作業の効率化に寄与します。
潤滑油は機械部品が滑らかに動作するための油で、摩擦を減少させて寿命を延ばす役割があります。切削油や作動油とは異なり、潤滑油は主に摩擦を抑えることが目的です。
作動油は油圧システム専用、切削油は金属加工時の抵抗軽減に特化しています。潤滑油は、ボールねじや摺動面に自動供給され、残量管理が必要です。
グリース潤滑は環境負荷が小さく、メンテナンスが容易ですが、高速運転時の温度上昇が問題です。
日本精工は新たに「ロバストライド」を開発し、グリス寿命を60%、許容回転数を20%向上させ、メンテナンス頻度を減少させました。これにより、作業効率も改善されています。
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