加工の効率化は速度から?マシニングセンタの切削条件設定のポイント | マシニングセンタ大解剖
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加工の効率化は速度から?マシニングセンタの切削条件設定のポイント
公開:2024.06.26 更新:2024.06.26マシニングセンタの能力を最大限に引き出し、加工効率を飛躍的に向上させるためには、適切な切削条件設定が不可欠です。切削速度や送り速度、切込み量などの切削条件は、加工精度、工具寿命、加工時間などに大きく影響します。適切な切削速度を設定することで、工具の寿命を延ばし、精度を確保することが可能となります。
目次
加工の精度や速度に影響を与える切削条件
加工の精度や速度に影響を与える切削条件は、材料の硬度や熱伝導率、加工後の物性変化を考慮し、最適化されなければなりません。例えば、適切な切削速度やフィードレートの選定が加工効率や工具寿命に直結し、切削時の熱や切りくずの管理にも影響します。
さらに、適切な冷却液の使用や工具の選択など、細部にわたる調整が必要です。これらの切削条件の適正設定が、加工の品質向上と効率化を実現する鍵となります。
◇ 切削条件とは
切削条件とは、工作機械による切削プロセスで使用されるパラメータや条件のことです。これには切削速度、送り速度、切り込み深さ、そして使用する切削刃具の種類などが含まれます。
これらの条件は加工する素材の種類や形状、加工精度の要求、そして使用する工作機械の性能に応じて調整されます。適切に設定された切削条件は、加工効率を向上させ、品質を確保するのに役立ちます。
最適な状態にするのは困難で、常に完璧な解答があるわけではありません。どの要素を優先するかは具体的な状況によりますが、加工要素をバランス良く調整することが重要です。
◇ 切削条件の重要性とバランス
切削条件の設定は、加工の効率だけでなく、加工物の品質にも直接影響します。加工時間を短縮しようと切削速度を上げすぎると、加工物や切削工具に過度な負荷がかかり、精度が低下したり、工具の寿命が短くなったりするリスクがあります。
また、振動が発生すると、仕上がりの表面粗さに悪影響を及ぼすこともあります。そのため、加工物の材質や形状、必要な精度に応じて、切削条件をバランス良く設定することが求められます。
切削条件の最適化は、長期的な視点で見ると、工具の寿命を延ばし、メンテナンスコストを削減することにも繋がります。また、安定した加工品質を維持することで、製品の信頼性を高め、顧客満足度を向上させることができます。
切削条件の内容と決め方
画像出典:リスナーエンジニアリング
切削工程において最適な結果を得るためには、適切な切削条件の選定が不可欠です。ここでは、切削速度、回転数、送り速度、切り込みの各要素について、その特徴と決定方法、そしてそれらが切削工程に与える影響について詳しく解説します。
◇ 切削速度
切削速度は、切削工具が被削材を進む速さを示します。具体的には、切れ刃が1分間に進む距離で表され、旋盤加工では被削材が1回転するとその円周分だけ切削工具が進むことになります。切削速度を適切に設定することで、作業時間を短縮し、加工面の仕上がりを向上させることができます。
切削速度 V(m/min)は以下の式で計算されます。
切削速度 V(m/min)=π×D×N/1000
ここで、D は旋削加工の場合は被削材の直径、穴あけやフライス加工の場合は刃径を表し、N は1分間あたりの回転数です。
切削速度を上げると、加工時間が短縮され、また仕上がりも向上しますが、同時に切削熱が増加し、工具の寿命が短くなる可能性があります。逆に切削速度が低すぎると、加工面が粗くなったり、ビビリが発生するリスクがあります。そのため、切削速度を適切に設定するには、素材の特性や加工の要求に応じて調整することが重要です。
◇ 回転数
切削機械の主軸の回転数(N、rpm)は、主軸が1分間に何回転するかを表します。この回転数は切削速度と密接に関連しており、以下の式で計算されます。
回転数 N(rpm(rev/min))=切削速度×1000/π×D
ここで、切削速度は切削工具が被削材を進む速さを示し、D は旋削加工の場合は被削材の直径、穴あけやフライス加工の場合は刃径を表します。
この計算式からも分かるように、回転数が増えると切削速度も速くなります。つまり、回転数を適切に設定することで、所望の切削速度を得ることが可能です。
◇ 送り速度
送り速度は切削工具を移動させる速度を指し、送り量やテーブル送りとも呼ばれます。旋削加工では、被削材が1回転するごとに切削工具が進む距離を基準として計算されます。具体的な計算式は以下の通りです
1分あたりの送り F(mm/min) = 回転あたりの送り f(mm/rev) x 主軸回転数 N(rpm)
一方、フライス加工では、1刃あたりの送り速度と刃数(または歯数)を考慮して計算されます。
1分あたりの送り F(mm/min) = 一刃あたりの送り f(mm/tooth) x 刃数 t (又は n)x 主軸回転数 N(rpm)
送り速度を大きくすると加工時間は短縮されますが、同時に加工面の粗さや工具の寿命の短縮にもつながることに注意が必要です。送り速度は加工条件を調整する際に重要なパラメータであり、適切な設定が品質確保と加工効率向上に寄与します
◇ 切り込み
切り込みは、工具が材料に入る深さや幅を示し、加工する材料の剛性や形状に応じて調整されます。深い切り込みは大きな力を必要とし、工具や機械に負担をかける可能性があるため、慎重に決定する必要があります。
これらの切削条件を適切に設定することで、効率的かつ高品質な加工が実現されます。各条件は相互に影響を及ぼし合うため、バランス良く調整することが求められます。
不適切な速度の設定による影響
マシニングセンタにおいて、切削速度や送り速度などの加工速度は、加工精度や工具寿命、加工効率に大きな影響を与えます。適切な速度設定は、高品質な製品の安定生産に不可欠です。
しかし、不適切な速度設定は、様々な問題を引き起こし、加工の失敗やマシニングセンタの故障につながる可能性さえあります。
◇ 送り速度と回転速度の関係
送り速度と回転速度は、切削工具の性能を最大限に引き出すためには、互いに適切なバランスで設定される必要があります。送り速度が速すぎると、工具に過度な負荷がかかり、摩耗や破損のリスクが高まります。
一方、回転速度が遅すぎると、切削効率が低下し、生産性に悪影響を及ぼします。したがって、これら二つの速度は、切削条件や工具の種類に応じて慎重に調整されるべきです。
◇ 速度の上昇と工具の摩耗
高速切削では、切削速度を上げることで加工効率が向上しますが、同時に切削温度も上昇します。この高温状態が工具の摩耗を促進し、耐摩耗性や靭性不足によって工具の寿命が短くなる原因となります。
特に、工具材料の耐熱性や硬度が低い場合は、高速切削による摩耗が顕著になります。このため、最適な切削条件を設定する際には、加工する素材の特性や工具の耐久性に応じたバランスが重要です。
これらの特性は、工具の寿命を左右するため、高速切削を行う際には、工具材料の選択に細心の注意を払う必要があります。
適切な切削条件の設定で加工時間を半減
加工の効率化は、生産性の向上に直結します。特に、切削条件の最適化は、加工時間を大幅に短縮することが可能です。ここでは、適切な切削条件を設定することで、どのように加工時間を半減させることができるのかを、具体的な工程改善の事例を交えて解説します。
◇ 速度不足の実態と原因
S社のインドネシア工場において、門型マシニングセンタの高速高精度制御に関する問題が発生していました。プログラム指令値がF4500mm/minであるにもかかわらず、実際の加工速度は約F2800mm/minまでしか達していないことが分かりました。
さらに、送り速度指令をF10000mm/minと設定しても、実際の速度は約F4300mm/minに減速しています。この問題を確認するために、X、Y、Z軸の各軸を単独で直線往復運動させるテストプログラムを実行しました。
AI輪郭制御(G5.1 Q0指令)をOFFにした場合、実速度は指令値通りにF10000mm/minに達することから、この制御機能が速度制限の原因であることが示唆されます。したがって、今後の調整においては、このAI輪郭制御の設定を見直す必要がありました。
◇ 設定の変更と変更の際のポイント
原因を特定した後、次はサーボ波形の観測とパラメータの調整に移ります。この段階では、機械の動作を細かく観察し、最適な切削速度を見つけ出すことが求められます。また、工具の交換や、作業者の技術向上のためのトレーニングも同時に行うことで、全体の生産性を高めることができます。
◇ 変更後の効果
実加工テストにより、速度優先の調整を行った結果、加工時間が約50%短縮されたことが確認されました。一般的に、速度と精度は相反する関係にあります。速度を上げると精度が低下し、精度を高めると加工時間が長くなる傾向があります。
初期設定が精度優先であったため、速度優先の調整が有効であったと言えます。加工ワークの要求精度に適合した最適な加工設定を見つけることが、効率的な加工時間の短縮につながった要因です。
切削条件は加工の精度と速度に直接影響を与える重要な要素です。材料の硬度や熱伝導率、加工後の物性変化を考慮し、最適な切削速度や送り速度、適切な冷却液の使用が必要です。これらの条件を適切に設定することで、加工効率を向上させ、工具の寿命を延ばし、加工品質を確保することが可能です。
特に切削速度や回転数の最適化は、加工時間の短縮に大きく寄与します。例えば、速度優先の設定変更によって加工時間が約50%短縮された事例をご紹介しました。 ただし、速度と精度のバランスを考慮することも重要であり、過度な速度設定は精度低下や工具の早期摩耗を引き起こす可能性があります。したがって、切削条件の適正設定が加工の効率化と品質向上に不可欠です。
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